2009年11月25日水曜日

具体と抽象

工学者が「論理式を解いていくのはとても抽象的でよくわからない」と言う。彼は分子や原子など実際にあるものを見るほうがはるかに楽だそうだ。
その場にいて数学博士と私はこの考えがわからなかった。というのは、論理式や数式の方がはるかに実体を伴ったものであり、分子や原子は抽象的過ぎてわからない。
具体的なものと抽象的なものはお互いに違うことがわかった。ものごとを理解するには具体的なものを用いる、言い方を変えると、例を用いた方がよいというのはよく言われることであり、私自身もそう思う。抽象的なことをよく理解している人は具体的なよい例をつくれることが多い。
具体的か抽象的かはそれにどれだけ触れているかというのも関係しそうである。私が数学をやっていたと言うと、他の人からは物理が得意だと勘違いされるが、私は物理学は高校レベルでもよくわからない。もちろん物理ができる数学者はたくさんいるし、大学の幾何の研究者からは高校時代に物理学をきちんと学ぶように言われた。ただ、私は物理が本当なのかどうかわからなくなり、そして問題を解くときに勝手に文字を登場させて解答にもその文字を残したままという発想が理解できなくて、物理からは遠ざかった。私には具体的な物理現象というのは何にも思いつかない。一方、数学ならある程度具体的な例を作れるとは思うが、どんな例をつくっても抽象的と言われる。昔、層の例として実数空間(0,1)の無限回微分可能な実数値関数の全体を挙げたら、そんな抽象的な例ではわからない、と言われた。とても具体的な例だと思って説明したのだが、相手にはそうではないらしいことがわかった。
抽象的なものを理解するには具体的なものを扱ったほうがいい。理解しようと具体的なものを散々触ってみることが抽象的なものを理解するのが一番よい方法のようである。

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