2007年9月30日日曜日

欺瞞団体経団連とは?

YOMIURI ONLINEからの引用。

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大学院修士1年の採用活動、経団連が自粛呼びかけへ

 技術系を中心に修士(大学院修士課程修了者)の企業への就職が増える中、日本経団連は27日、会員企業に対し、修士1年時に広がる大学院生の採用活動の自粛を呼びかける方針を決めた。

 選考のルールがあいまいなため、採用活動が1年時の秋から、半年近く続くこともあり、「浮足立って研究に集中できない」などと大学から批判が出ていた。経団連は、倫理憲章に大学院生の新卒採用についても、「学事日程の尊重」を明記して、各企業に適正化を求める。

 経団連の今春の調査によると、技術系新卒採用の7割以上が修士。かつては修士2年時に、学校推薦など就職先が決まるケースが多かったが、最近は、学生自らが企業のホームページに登録して選考を受けるのが主流。製薬系の9月を先頭に、各企業も優秀な学生を確保しようと、採用活動が早期化、長期化していた。

 こうした状況について大学は、大学院教育の軽視と批判。大学院の重点化で、大学の学部とは別の大学院に進む学生が増えており、東京工業大の三木千寿副学長は「大学院教育の充実に力を入れているが、就職活動で寸断され台無しになる。半年で何を身につけたと判断するのか」と改善を求める。

 経団連は批判を受け、あいまいだった倫理憲章を明確にした。大学院の採用活動について「学習環境の確保に十分留意する」としただけだったものを大学と同じように、「学事日程の尊重」を明記、「学業に専念する十分な時間を確保するため、卒業学年に達しない学生への選考活動を厳に慎む」とした。

(2007年9月27日14時33分 読売新聞)

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2006年10月17日発表の経団連の倫理憲章で、学部4年生にならない学生への選考を自粛することは知られているが、「6.その他」において「大学院修士課程修了者の採用選考においても学習環境の確保に十分留意する。また高校卒業者については教育上の配慮を最優先とし、安定的な採用の確保に努める。」という「逃げ道」が用意されているのはあまり知られていない。大学院に行くのは現在では理系の方が多く、2007年7月31日時点での経団連の会長・副会長職は16名中8名が製造業の社長、または会長。2006年5月から御手洗冨士夫キヤノン会長が経団連会長を務めているので、上記の倫理憲章は御手洗現会長時に発表されたと分かる。大学院生に対し特例を設けているのは、キヤノンを含めた製造業に学生を採りたいとも思える。
上記記事では、製薬業が規制対象のように書いてある。会長・副会長職には製薬業の社長・会長は入っておらず、評議員会議長・副議長に武田薬品工業の社長が一人入っているだけ。経団連が理系修士の学業に配慮したようだが、結局は自身の企業に学生を採るために立派そうな文言を述べたにすぎない。
なお、キヤノンは修士1年生に対しての説明会を秋から開いているので、採用活動を自粛しているとはまったく思えない。

2007年9月29日土曜日

文部科学省科学技術政策研究所 「数学イノベーション」


第一章では、NISTEPの研究者が各国の数学研究を取り巻く状況を説明している。日本は数学に対して資金投下を行っていないのではないか、一方アメリカは1998年にオドム・レポートが出され数学研究振興策が打ち出された。フランス、ドイツも振興している。
ただ、日本は世界的に特殊な国民性があるらしく、「日本では数学に関する複数種の月刊誌が刊行されているが、これは他国では例のないことらしい。」。江戸時代も数学の問題が絵馬に書かれて町民が解法を競ったらしいし、現在でもインド数学がブームになっていることから、民間でも数学を楽しむ風潮は自然とあるとも私は思う。
私がこの章で好感が持てるのは、数学研究に関しての留意点である。イノベーションの達成や科学技術による社会的成果の獲得に対して「うまくいかなくなった場合でも、数学の発見などの副産物が生まれる可能性はあり、また研究者にとって数学的な試行錯誤の経験自体が後々の研究活動に有益だろう。数学研究自体には莫大な設備や施設を必要とせずそれほど大きなコストはかからないのだから、利益とリスクやコストを天秤にかければ躊躇する理由はとぼしいように思う。」。また「数学研究にも評価は必要だが、短期間での評価は逆に研究活動を萎縮させ、可能性の目をつんでしまうおそれがあることにも留意すべき」とある。
数学の人材は数学以外からも欲せられている。文部科学省も平成19年度新規戦略目標に「社会的ニーズの高い課題の解決に向けた数学/数理科学研究によるブレークスルーの探索(幅広い科学技術の研究分野と協働を軸として)」を掲げ、その戦略目標下の研究領域名は「数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索」である。」現場の研究者よりも行政の方が現状を見据えているという珍しい構造である。

第二章以降は、大学の数学者から、新日本製鐵や日本ユニシスなどで数学を使った研究をしている研究者から、数学がどのように使われているかという話である。この種の本にありがちな、数学は面白い、数学は役に立つ、というレベルではなく、数学がどのように使われていて、どんな人材が必要なのかという切実な願いが伝わってくる書き方である。数学は文化ではなく、経済発展、社会貢献に必要であるというこの本の意図が凝縮されている。

さて、ただの書評じゃ終わりませんて。
この「数学イノベーション」、大学事務室に送付しています。PDや学生がいそうな部屋、事務室に配架してくれとの注釈までつけて。NISTEP、大盤振る舞いですが、これは投資と考えているのでしょう。学術振興、研究振興も最近は経済観念がないとやっていけない流れです。(すべてがそれでいいとは思わないが。)